![]() |
|
| 「ていねいに使っていただければ、何百年ももちますよ」と職人気質の加藤さん親子 |
一宮に木魚を作る職人さんがいるといううわさを聞いて訪ねてみた。地図を頼りにたどり着いたお宅には「加藤木魚製造所」の看板の上に赤い木魚が…。
日当たりのいい南向きの工房をのぞいてみると、加藤春男さんと寿和さん親子が黙々と作業にいそしんでいる。さっそく木魚づくりについて、話を伺うことにしよう。
子どものころ、仏壇の横に置かれた木魚をぽくぽくたたいて、でたらめのお経を読んだ経験を持つ人も多いのではないだろうか。日本人には身近な存在の木魚だが、現在、木魚を作る職人さんは全国にわずか20名足らず。中国からの輸入品に押され、国産品の需要が下がり、職人さんも激減しているという状況だ。
そんな中、木魚製造一筋、半世紀以上もの間、黙々と木魚を作り続けている加藤春男さんは、愛知県から伝統工芸章や郷土伝統工芸の優秀技術者として表彰される一流の職人さんだ。
「父親である先代の後を継いで、ひたすらやってきただけ。手作業の仕事はなんでもそうだと思うけど、木魚作りも奥が深い。やればやるほど、まだまだという気持ちがわいてくるでね」と語る。そして息子さんの寿和さんも、サラリーマン生活を経て、15年前に春男さんのもとに弟子入り。三代目として木魚作りに精進する毎日だ。
「小さいころから祖父や父の仕事を見て育ってきましたので、なんとなくできるだろうと思って始めましたが、見るとやるでは大違い(笑)。毎日試行錯誤の連続です。父の域に達するまでの道はまだ遠いですね」
すべての工程を手作業で進めていく木魚作りだが、一つ作り出すのに最低でも1年、大きいものになると3年〜5年かかるという。
「原木であるクスノキを自然乾燥させるのに時間がかかるんです。乾燥をじゅうぶんしないと、割れるもとになるので、しっかりと乾かします」とは、寿和さんの弁。では注文してから何年も待たなければならないのだろうか。
「いやいや、そんなに待ってくれる気の長いお客さんはいませんので、作る大きさに合わせて原木を切る木取り、そして中をくりぬいて荒彫りするところまでは、ある程度ストックしています」とのこと。
その後、注文に応じて作っていくわけだが、全工程の中でも一番難しいのは、いい響きを出すための彫りだそうだ。
名人と言われる春男さんでも「中面を少しずつ彫っていくんだけどね、一番いい音色が出るところで、彫りをやめるさじかげんが微妙なんだわ」とその難しさを語る。頂上だと思って彫っているといつの間にか下り坂にさしかかっていることも。てっぺんを見極める勘がモノを言う。
「長年やっとっても、これでいいということはないね。棺おけに入るまでないだろうなあ」と笑う。木魚の内部の空洞部分を腕と勘だけで彫っていく作業は、豊富な経験と技がなければできない。この工程は寿和さんもまだ手が出せない部分だという。
春男さんはなんでも凝り性で、やりだしたら納得のいくまでとことんやる、まさに職人気質の人。美しい音色を出すために必要な中彫り用のノミも、独学で研究を重ね、春男さんオリジナルの道具を作ってしまった。
「だって、木魚の中を彫るための道具なんて、どこ探しても売っとらんでね。自分で作るよりしょうがないでしょ」と言う春男さんに「いくら売ってないからって、鍛冶仕事まで自分でやっちゃう人はあんまりいないでしょ」と寿和さんがこたえる。
その独特のノミでくりぬいた美しい響きの木魚が、全国各地のお寺や家庭で使われるということに、加藤さん親子はそこはかとない喜びを感じるという。
「大切に使ってもらえば、100年でも200年でも使えます。買ってくれた人が、愛着を感じ、何代にも渡って愛用してくれる。自分たちがこの世から去っても、作品は残って、人の暮らしに役立つ。そう思うと仕事のしがいもありますね」
横幅5寸〜6寸(約15cm)の家庭用から、お寺の本山で使う2尺(約64cm)以上まで、木魚の大きさはさまざま。また彫りは、龍や鯱(しゃち)をデザインしたものが多いが、意匠は注文に応じて変化をつけられるという。
最近は、遊び心も取り入れて、お遍路さん用の携帯用木魚(5,000円〜)も作っているそうだ。時代と共に呼吸しながらも、加藤さん親子は、こつこつと伝統工芸品を作り続けている。