「舞踏の中のどんなジャンルですか」と質問したら、「舞踏というのが一つのジャンルなんです」とのお答え。踊り全般のことを舞踏というような気がしていたが、どうやらこちらの認識不足らしい。
そういえば昔、暗黒舞踏と呼ばれる不思議なパフォーマンスを見に行ったことがあったが、もしかしてああいう世界?「そうです、その舞踏です」ということであった。
今月は、舞踏家として全国を舞台に活躍する橡(とち)川キョウさんをご紹介しよう。
橡川さんを紹介する前に、まず舞踏の歴史について少し勉強してみたい。
舞踏とは、1960年代に土方巽によって広まった言葉。それまでダンスといえばバレエやモダンダンスなど、西洋の舞踊を意味していたわけだが、そうした既製概念を一切取り払い、日本人としての身体特性や風土性を生かした内面表現を始めた人たちが、新しいアートの扉を開けていった。それが舞踏という一つのうねりとなって、現在もさまざまな人やグループに受け継がれている。
橡川さんも、その一人だが、最初から舞踏家を目指したわけではなく、「自分を表現する手段」を試行錯誤していくうちにたどり着いたという。
「小さいころから体が弱かったせいもありますが『人間はなぜ生まれてきたのか』とか『生きる意味ってなんだろう』とか、哲学的なことを一人で考えるような変な子だったですね」
人生に対する大きな疑問を常に心にかかえつつ、自分自身を表現するための手段として、91年には劇団「フリークス」を旗揚げ。演出、脚本、主演と大活躍の日々だったが、そんな中で舞踏に出合い、レッスンを続けていくうちに「自分の表現方法はこれだ!」と確信したそうだ。
「私の師匠は藤篠(ふじえだ)虫丸という人ですが、彼との出会いが大きかったです。天然肉体詩人と呼ばれる自然体の踊りを見て、私も舞踏で自分の内面を表現していきたいと強く思いました」
以来、橡川さんの舞踏家としての活動が始まり、現在はソロでさまざまなイベントに参加。フリーミュージシャンとのコラボレーションも数多くこなしている。
「舞踏は基本的には即興です。もちろんステージによっては、テーマを決めることもありますが、それでもどのような振りで踊るかは、ステージに立ってから決まってきます。野外での公演が多いので、天候やその時の自分の状態、お客さんが作る雰囲気など、すべてがとても大切な要素になります」
あらかじめ決めたことを披露していくダンスと違い、その時、内側から出てくるものを身体を使って表わしていく。
「日ごろの生き方がそのまま出てしまうので、とても怖い面もあります」
そこに漂う空気をキャッチして、常に“今”を表現していくことは、まさに直感の世界。自分自身を深く掘り下げて見つめていくことでもあるという。
「踊っていると、心と体はひとつなんだなと実感します」
踊っても踊っても、行き着くところがなく「これでOK」と思えることのない世界。始めて間もないころは「こんなちっぽけな私が表現したところで、何になるんだ」と落ち込むこむこともあったが、観客からのエネルギーを感じたり、「感動したよ」と声をかけてくれたりするお客さんに支えられて、ここまで来られたと感じている。
「自分と向き合うことができるからこそ選んだ手段。これからも続けていきたいですね」
そんな橡川さんが、少しでも多くの人に体と向き合うことの大切さを知ってもらいたいと、自らのテクニックと体験を生かしたワークショップを開催している。
「初めての人も運動の苦手な人も、どなたでもご参加いただけるようなプログラムを用意していますので、気軽にのぞいてみてくださいね」
整体や柔軟、筋トレなどを中心に行う一部、創作表現をしたい人向けのダンス基礎を学ぶ二部とに分かれており、どちらか一つだけの参加もOKだ。体の調子が悪い人や心身の調和について興味のある人は、ぜひのぞいてみよう。