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| 歴史を感じさせる外観。萩原の街道に溶け込んでいる |
今月訪ねたお店は創業昭和3年、約80年の歴史を誇る、和菓子の店「川村屋賀峯総本店」。同店は、古くから尾張の文人たちに親しまれた茶室「餘楽庵」を持つことでも知られ、店主の原鉦三さんは、茶人としても名高い。和菓子作りについてうかがった。
「私の祖父は店の跡を継がず、官僚になってしまったんですね。だからその代だけこの店は中断しているんですよ。その後おやじが再開したので、創業は昭和3年になってるけど、本当はね、明治のころから店はあったんですよ」と原さんは、少し残念そうに語る。
小さいころから和菓子屋の後継ぎとして育てられ、学校を出ると京都の和菓子のしにせに入り、7年間の修業。萩原町に戻ってからは、和菓子一筋に店を切り盛りしてきた。
「和菓子は、口に入れて『あー、おいしい』と思える味ももちろん大切ですが、それだけではないんですね。色や形、姿、そして菓子名まで、全部ひっくるめて、いかに季節感を伝えられるかを考えてなくてはいけない。こんなに日本文化のエッセンスが詰まっている食べ物ってないんじゃないかな」
四季の微妙なニュアンスを感じとる日本人独特の感性がはぐくんできた伝統の味を、原さんは心をこめて作ってきた。
「お客さんに『ひこついお菓子、作らっせるなも』と言われた時は、うれしかったですね(笑)。そういう和菓子作りを目指しているわけですから」
「ひこつい」とは、“珍しい”とか“気のきいた”という意味の方言だそうだ。つまり原さんは、カッコよくてクールな京菓子を作り続けているというわけだ。
店内には、木のわくが歴史を感じさせる年代物のショーケース。その中に収まっている和菓子は、見た目も涼し気なきれいなものばかりだ。
「はまづと(240円)」「岩清水(300円)」「紫陽花(290円)」「唐ころも(260円)」など、生菓子類は季節によって変わっていくが、常に12〜13種類を販売している。
特に「はまづと」は同店の名物。本物のハマグリの殻を使って、貝に見立てたアイデアが面白い。殻を開けると、寒天と焦がした砂糖で作られた「こはく糖」が鮮やかな黄金色に輝いている。そしてこはく糖の中には浜納豆が一粒。
「『はまづと』とは、『浜土産』と書くんです。浜からの涼しい風情を感じながらじゅうぶん冷やして召し上がってください」
食べる時は、殻をスプーン化わりにしていただくと、一層雰囲気が出る。ゼリーに似て非なる、なんともいえない食感と甘味、そして浜納豆の、ほんのりとした塩味が絶妙。
生菓子のほかにも、ようかんやカステラ、また季節ごとの草花を形どった、美しい干菓子などをとりそろえている。
和菓子を追求するからには、茶道にも通じ、遊び心を持つゆとりを持たなければ、というのが原さんの持論だ。
伝統の茶室「餘楽庵」で、原さんは時々茶席をもうける。
「このごろは、息子夫婦ががんばって店をやってくれていますので、これからは、長年続けて来た茶道を楽しみたいと思っています」
息子さんの桂一郎さんも京都の和菓子店で3年の修業を終え、和菓子を作り始めてすでに7年目。代々の味を守りながらコツコツと腕を磨いている。
「和菓子は、主材料も副材料も植物性なので、ヘルシー志向の現代にぴったりマッチするお菓子です。体にも心にもやさしい食文化を広めつつ、伝統の味を守っていけたら、こんなにうれしいことはないですね」
“ひこつい”和菓子を食べたくなったら、萩原町まで足を伸ばしてみよう。