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味のある店2004年10月号・29号 - 人を訪ねる
松原憲司 さん
松原 憲司さん
松原 憲司さん
愛知県一宮市大字光明寺字本堕落3

きれいな色も汚い色も両方が好きなんです

 小さなころから絵が大好きだった。絵が好きということをもう一歩踏み込んで考えたら、「色、つまり色彩による表現が好き」に気がついたという松原憲司さん。一宮と名古屋で、子どもから大人までを対象とした造形教室を開き、本人もさまざまな作品を発表し続けるアーティストである。

ヨーロッパ美術を巡る1年間の旅

 一宮高校、武蔵野美術大学、そして大学院も修了した松原さん。「ほんとは助手になって大学にとどまりたかった」が、それがかなわず、さればということで学生時代からの夢でもあった、ルネッサンス期をはじめとするヨーロッパ美術の美術館や建築物を見てまわることを計画。もちろん先立つものがあるわけもない。旅に出る前、約1年半におよぶバイト生活を経て資金を蓄え、待望の機上の人となったのは20代も半ばを過ぎたころだった。
 「フランスを手始めに、そこから全部で13カ国、120の都市を巡って、約400カ所の美術館や博物館、聖堂、遺跡などを見て歩きました」
 400カ所と言ってしまえば簡単だが、並大抵の数ではない。それだけの所を1年間有効の航空券(オープンチケット)でまわるというのだから、毎日1カ所以上へ足を運び、これを丸々1年にわたって続けることになる。
 「今から考えてみても、どうしてできたのかなって不思議に思います。でもフランス、ベルギー、オランダ、東・西ドイツ、スペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、トルコ、スイス、オーストリア、イギリスと、確かに13カ国、400カ所をまわってきたんですよ」
 このようなハードな旅に松原さんを動かしたのは、「それぞれの作品を、その風土の中でとらえなおしたい」という一途(いちず)な思いだ。確かにルネッサンス期の作品などは現地に行かなければ見られないものがほとんどで、また建築物などについても直接行くことは必須条件だ。自らの作品に情熱を注ぐことも大切だが、自分の興味ある作品や建築を、まずは徹底的に見る。その経験が今も脈々と松原さんの中に流れているという。

多彩な作品群に共通する色彩への興味

 正確には、この旅に出る前からだが、友人と画集などの美術書出版に着手した。多彩な画家による「ルネッサンス絵画I・II」や「フェルメール全作品集」などが、それ。やがて33歳で名古屋市東区に「アトリエ・フォレ(造形教室)」を開き、39歳には一宮市向山に「コロール造形教室」も開いた。
 教室を運営するかたわら、本の装丁や知人に頼まれた喫茶店の駐車場の立体看板なども手がけ、また一方では学校で美術講師なども勤める松原さん。自分の作品を絵画というワクの中だけでとらえるのではなく、造形でもイラストでもすべての作品が自己表現であるというのが基本のスタンスだ。そして、その自己表現の中でも、特に“色彩へのこだわり”を持ち続けていたいと言う。
 「色にはきれいな色も汚い色もあって、僕はその両方が好きなんです。色を重ねることによって、それを形として表す。結局のところ、絵は二次元のものをいかに三次元に見せるかという作業であって、そこに色の果たす役割は非常に大きいものがあります。フランスにはバルール(色価)という言葉がありますが、そのバルールをいかにコントロールして自分の作品に生かすかが課題ですね」
 手元の資料によれば、バルールとは色の彩度や明度(鮮やかさや調子)の対比によって生じる、色の目立ち具合のこと。簡単に言うと、全体の中で目立っている色があるとすると、その色は他に比べて「バルールが高い」と言えるそうだ。

子どもたちを見ていて感じること

 造形教室の様子もうかがってみた。生徒は幼稚園・保育園の年中さんから80歳を超える高齢の人たちもいる。松原さん自身の考えもあって、使用する素材も、油絵の具、アクリル、クレヨン、色鉛筆、ボールペン、水彩など、実にバラエティ豊か。また絵画、造形からデッサンにいたるまで、教える内容もさまざまだ。
 「大人の生徒さんたちにいつも言うのは、描きたいものを見つけることがまず第一。その上で、どんな素材を使えばいいかを考える。『考えつかなきゃ、全部やってみたら』と言うんです。ここでやっていることは学校の『図画工作』の範疇(はんちゅう)。いろんなことに挑戦してもらいたい。どんなことでも僕で出来ることは積極的にアドバイスしています」
 3歳、4歳といった子どもたちを見ていて感じるのは、モノ作りの喜びを知らない子どもたちが増えていること。モノは作ったら壊れる、そしてそれは直せる、その一連のプロセスを教えたいと願う松原さん。
 「たとえば工作にのりを使う。昔は指で付けていたけど、今はスティックのりですよね。この例を見てもわかるように、自分の指で感じるという、いわゆる現実感が乏しいんですね。こうした自分で作るということを少しでも多く、いろんな作品制作を通じて学んでほしいというのが正直な気持ちです」
 子どもの教室通いについては“低年齢・短サイクル化”が進んでいる現状らしいが、もう少し長い目で子どもたちの美術教育を考えてあげてもいいかもしれない。

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