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| 深く、静かに、地ビール造りに情熱を傾ける山田さん |
1994年の酒税法改正を受けて、全国各地で地ビールの生産が始まった。これまでにあった年間生産量の“くくり”をより低く設定したことから、新たな醸造所が94年以降、約300軒誕生。この尾張地区で名乗りをあげたのが「尾張ブルワリー」だ。
現在、「尾張ブルワリー」の製造責任者を務める山田文隆さん(31歳)に伺った。
「尾張ブルワリーに就職する前は、実は東京で漫画家の修業をしていたんです。漫画家への情熱が次第に薄れてきたことや、郷里がこっちだということで、こちらに帰ってきました。97年に就職した会社がたまたま地ビール造りを始めるということで、ぼくがその担当者の一人になったわけなんです」
つまりビールに関してはまったくの素人であった山田さん。入社早々、会社からの命を受けて、埼玉県は川口にある大手ビール会社の工場で約1カ月間の研修を受けることになった。
「ビールの製造方法はもちろんのこと、設備設計や、醸造知識の講義など、約1カ月にわたって勉強してきました。こちらに戻ってからは、生産設備の立ち上げやレストランの開店準備などにも参加。97年の12月には、4種類の地ビールを完成させ、直営の「麦酒館」などのレストランとともに開業することになりました」
開業当初、地ビール製造に関しては補佐的な立場にあった山田さんだったが、人事異動などもあって、間もなく製造責任者に。もちろんそこに至るまでにも、数々の試行錯誤があったという。
山田さんたちが地ビールを製造するに当たって考えたのは、“飲みやすいビール”というコンセプトだった。開業当初はレストランだけでの提供を考えており、その意味でも、食事との相性や、いかにクセのない、多くの人に親しまれるビールを造り出すかに知恵をしぼった。
「ピルス、ヴァイツェン、エール(2種)の4種類でスタートしたのですが、その後、レストラン以外でも飲んでもらおうということで、2001年からは瓶入りを販売して、居酒屋、百貨店などでの小売りもスタートさせました」
と同時に、新しいビール造りにも着手。「スタウト」「ボック」などを次々と商品化するかたわら、「尾張一宮七夕まつり」や「杜の宮市」など地域イベントなどにも出店。地元のビールを積極的にアピールすることに力を注いだ。
「地域イベントなどにかかわることで、少しずつ明らかになってきたこと。それは地元にしかないビールを造りたいという思いです。ピルスやヴァイツェンなどは他社でもやっている。本当の意味で一宮独自のビールができないかなと考えたんです」
こうした自問自答から山田さん自身の手によって誕生したのが、一宮特産の「おりひめ米」を副原料に使った「おりひめビール」であった。2001年6月の「第1回・杜の宮市」で販売したところ、当初予想を上まわる約600杯が売れた。ペールエールという種類をベースにして、すっきりした口当たりとのどごしを追求。「おりひめ米」の効果で、狙いどおりの味が出せ、好評を博したのだという。
単にビールを製造して販売するだけではなく、さまざまなカタチで人々に愛されるビールを造り続けたいと願う山田さん。規制緩和に伴ってではあるが、せっかく誕生した地ビールという文化を、さらに深めていきたいという気持ちもある。
「表現の自由や言論の自由のように、個人が自由にビールを造れるというのは、本来なら当然の権利だと思うんです。その楽しさを少しでも分かちあえたらいいなと考えています」
一方では、地域の振興になんらかの役割を果たしたいと願うのも山田さんの基本スタンスだ。
「東京にいたころ、たまに里帰りして感じたのは、一宮の町がどんどん小さくなっていくような気がした。商店街を歩いてもシャッターの下りている店が目立った。繊維で栄えた一宮の町が、時代の波に取り残されていく光景だったんでしょうが、やはり寂しさは隠せない。ですから自分がここで住んで生活していく以上、なんらかのカタチで、自分の力が生かせないかと考えているのです」
そうした考えに立ち、前述のような地域イベントにも積極的に参加。
「地ビールは、値段が高い、賞味期間が短いなど、大手の製品に比べてマイナスな点も多い。それでも、本物の材料や、その土地から出る水(同社では井戸水を使用)だけを使って、純粋なビール造りに努めています。その価値を認めてもらいたいし、また人々の人生のさまざまなシーンで飲んでもらえるような、魂のこもったビールを造っていきたいとも思っています」
「大手ビール会社が造るビールが、スーパーなどで買ってくるハンバーグなら、地ビールは母親の手作りのハンバーグに相当する」とは、山田さんのビール観。なにものにも変えがたい“味わい”こそが、地ビールの魅力であると強調した。
最後になったが、「尾張ブルワリー」の各ビールは、「一宮名鉄百貨店」で、各種とも一本500円で販売中。その他関連の各レストランでも味わえるということだ。