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| お昼時、「うな芳」の前を通りかかれば、香ばしい匂いに誘われて、つい入りたくなってしまう |
「ソニー一宮工場」から西側に少し入ったところに「うな芳」というウナギ屋さんがある。場所がわかりにくいにもかかわらず、固定客がしっかり付いており、「うな芳さんじゃないとダメ」というファンもいるそうだ。
開店以来、頑固に独自の味を守っている店主、高間芳郎さんに話を聞いた。
「学校出てから、大手バス会社の修理工をしていたんだけどね。企業の歯車として働くことが性に合わなくて辞めました。いわゆる脱サラの走りだね」と高間さんは、30年以上前の青春時代を振り返る。小さくてもいいから一国一城の主になりたいという気持ちと、自分の可能性を広げたいという気持ちが高まり、新しい職種にチャレンジしようと思い立ったそうだ。
「最終的にウナギ職人になろうと決めたのは、いろいろな条件が重なったわけだけど、今思えば、やっぱり小さいころからウナギが好きだったんだろうね」
退職し、知人のウナギ店で5年間修業し、独立。脱サラした以上、何があってもこの仕事で頑張るのだという気持ちでここまでやってきたという。
「店を開いて、29年目。お客さんの好みも時代と共に変わってきているから、商売のことを考えれば、あるいは妥協も必要かもしれないけど、私は自分が納得のいく味を出し続けていきたいと思っています」
ウナギは、今では養殖が主流になっているが、いくら養殖ウナギといえども、習性や本能は残っているので、秋から冬にかけては、寒さに備えて脂肪を貯えるそうだ。
「『土用の丑(うし)』にウナギを食べて、夏バテを吹き飛ばそうとか言うでしょ。でもね、人間が夏バテしてる時は、ウナギも夏バテしてるんだよ(笑)。正直言って、ウナギはこれからの季節が脂が乗っておいしくなる。もちろん好みがあるから、一概にどちらがいいとは言えないけどね」
夏と冬では、焼く時に出る煙の量も全然違うそうだ。
「冬場のウナギは、火事と間違えるくらい、もうもうと煙が出ますよ」
季節によって、脂の乗り具合や皮の厚さ、身の締まり方など、微妙に違う。
「生きものだから、環境によって状態が違ってくるのは当たり前。そういうことを分かって、素材本来の味を引き出すことが、われわれ職人の仕事だと思ってるよ」
最近では柔らかいもの、マイルドな味などが求められているが、高間さんは「私はやっぱり、ウナギという自然素材にこだわっていきたい。無理矢理柔らかくして、本来のおいしさを消してしまったんじゃ、つまらないもの」
ウナギ職人になる難しさを一般に「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」と表現するが、まさにその通りだと高間さんはいう。
「工場で生産されたものと違って、自然相手だからね。同じ季節に仕入れた同じ重さのウナギでも、焼いたら全く別の仕上がりになります。ウナギの中味、表情をよく見極めて、火加減していかないといけないんだよ」
長年焼き続けている高間さんだが、100パーセント満足できたことは数えるほどしかないという。
「どれだけやっても、これでよしということはないからね。毎日毎日が修業ですわ」
ていねいに一本一本心を込めて焼く高間さんのウナギのファンは多く、年に一度京都や山梨から訪れるお客さんもいるとか。
「そんなお客さんは本当にありがたいです。それと子どもさんが『おいしい』って言ってくれるのもうれしいなあ」
やや辛口のタレでいただく、「うな芳」のウナギ、脂が乗ってくるこれからの季節に試してみてはいかがだろう。